これまでの職務経歴 ~レセプト審査・請求~

医療機関を受診すると自己負担として○割をその場で患者さんは支払いをすると思います。医療機関は残額を翌月に審査機関へレセプトと呼ばれる書類を全患者さんの分を提出します。

国民健康保険は「国民健康保険連合会」、社会保険は「社会保険診療報酬支払基金(以下支払基金)」の2ヶ所になります。

今回は私が勤めていた社会保険レセプトの審査・請求業務をご紹介していきたいと思います。

社会保険の仕組み

医療費の流れ / 支払基金公式サイトより

医療機関で受診し負担額を差し引いた医療費を患者さんの所属する「保険者」へ請求する必要があります。保険者は全国で15,000以上存在しており、医療機関が個別に請求することが難しいため「国保連合会」と「支払基金」が請求の代行をしていると理解していただければいいと思います。

レセプトの流れ / 支払基金公式サイトより

支払基金では同時にレセプトの内容に事務的不備がないか、病名に対して医療行為が適切であるか厚生労働大臣が定める「医療報酬点数」に該当しているかの審査を行っています。

レセプトの書式 / 支払基金公式サイトより

社会保険の豆知識

知っていても特に有益ではない情報。

保険者番号

健康保険証の保険者番号 / GC dentalより
法別番号

中小企業の組合「01」、民間の大手・同業種の共同保険者「06」、公務員(学校・警察等)「3○」など

都道府県番号

JIS X 0401に定められたコードと同じもの。福岡県は「40」

保険者番号

保険者個別に割り当てられた番号

検証番号

いわゆる「チェックデジット」。決まった係数で計算して算出された数字。入力すると即時にその数字が正しいかどうかの判断ができる。誤入力を防ぐためと正規の番号かを確認するために採用されている。

身近なものだとクレジットカードやキャッシュカードの番号の末尾もチェックデジットである。

診療点数 1点 = 10円

医療機関にかかった時に請求されるすべての診療内容、薬は厚生労働大臣の定める「診療報酬」と「薬価」に基づいて治療費が決められます。薬は1剤・1錠単位で設定されており○円○銭と円以下の細かい金額設定で定められています。

診療報酬は点数が基準なので問題ありませんが、薬は円を点数に変換します。決まりとして

「薬剤は所定単位あたりの薬価が15円以下なら1点、15円を超える場合は10円又はその端数を増すごとに1点を加算する。」

とあります。具体的には74円の場合には7点、75.1円だった場合には8点という感じです。

この1点 = 10円というのは患者さんの負担もしくは保険者の負担が○割というところによります。

例えば合計500円の治療費を3割負担すると

500円×0.3=150円

と定数に少数を掛けなければなりませんが、点数方式であれば

50点×3=150円

と定数になる箇所を一桁下げているので負担額の割合が変動しても計算しやすく、1円単位の数字が絶対に出ないところがポイントになります。

支払基金の1ヶ月の仕事の流れ

レセプトの受け取り

月の10日が医療機関からのレセプトを受け取る締切になっています。福岡県内の全医療機関から前月分のレセプトが支払基金に集まります。

法別番号別に件数・金額が集計された請求書を一番上へ乗せ、その下に法別番号順に整列された状態でレセプトがまとめられた状態で持ちこまれます。

レセプトの一番上に置かれる医療機関からの請求書
レセプトの審査

医療機関からレセプトの提出が行われると書類上の事務的な不備(記入漏れ等)がないかの確認、病名に対しての医療内容・投薬内容に疑義がないかの確認が行われます。

基本的には「診療報酬点数表」に照らし合わせて病名に対し適切な治療内容・投薬内容であるかを判断します。

診療報酬点数表 / こんな感じの内容が1000ページ近くある

診療内容とは別に薬の価格や病名に対して適切なのかを確認する際には「薬価基準早見表」を参照します。

薬価基準早見表 / こちらも1000ページ以上。鈍器である。

1枚のレセプトに対して事務的不備、報酬内容・投薬内容不備をチェックする時間は1秒未満である。イメージ的にはレセプトの左下を挟んでめくるように確認をしていき、チェックが完了したレセプトには緑色のボールペンで大きくレ点を入れていく。

レセプト1枚に対して1秒未満ですべての内容をチェックする

事務的不備がある場合には有無を言わさず「返戻付箋」を貼付して医療機関へ返送。次月以降に不備を修正してから再提出してもらうこととなる。

治療内容等で職員での判断が難しい場合、高額医療などの場合には「審査委員会」へ上程して審査を請う手順を踏む。

(※審査委員会 = 診療担当者を代表する者、保険者を代表する者、学識経験者の三者で構成され、診療担当者代表と保険者代表の審査委員については、それぞれの団体からの推薦により選任。 「支払基金」公式サイトより )

医療機関単位でのチェックが終わると請求書の件数と金額が合致しているか電卓を使って伝票算を行う。ここであの電卓が活躍するのだ。

過去記事 :

SHARP / CS-2130L

請求書の件数・金額が合致されていることが確認されると綴じこみされていたレセプトの振り分け作業に入る。

レセプトの振り分け

基本的には「法別番号」 → 「県番号」 (福岡県以外を撥ねる) → 「保険者番号」の順で振り分ける。 この時点でそれぞれの課が指定された保険者番号を担当することになる。

自課で担当する以外のレセプトを該当担当課へ台車を使って運搬する。

各部署から集まったレセプトを「保険者番号」を基準に振り分け。この後の電算機入力を行うために50枚ずつまとめて「ボステッチ」と呼ばれるホッチキスの巨大版を使って左上を綴じる。

50枚でも余裕で留められるボステッチ

50枚×10組で1ロットであり。これを紐で縛ってまとめておく。この時点で机の四方八方はレセプトの山で埋め尽くされる。

このロット作業中にも事務内容の不備を確認する。 数を数えながら内容をチェックするのは至難の技なのである。(おそらく数を数えながらというのもこれを見てる皆さんが想像してる以上のスピードである)

電算機入力

保険者別にレセプトがまとまったら電算機への入力作業へと移行する。電算機は「1次入力」と「2次入力」の2種類あり、1次入力が仮計算、2次入力が本入力と思っていただいてよいかと思う。

1次入力と2次入力はそれぞれ別の人員が配置される。

■ 1次入力

計算結果がロール紙とともに出力される加算機を用いる。2次入力時の誤打鍵を無くすために必要な入力。1組50枚を打ち終わるとレセプトの束にロール紙を折り込んで挟みこみ2次入力へ渡す。

50枚の入力に必要な時間は30秒~40秒。1ロット(50枚×10組)あたり早い人だと5分強で入力が完了する。

ロール紙出力機能付き加算機

■ 2次入力

ものすごくデカいフロッピーディスク(当時はディスケットと呼んでいた)を使うオフコンと呼ばれるデータ入力のみに特化した「オフィスコンピュータ」に入力する。今の時代フロッピーディスクと言われても知らない方がいるかもしれないが今でいうところのUSBメモリとかSDカード的なものだ。

これだけサイズがでかいのに容量は1MBほどしかない。GBやTBではないメガバイトである。令和の時代にスマホで撮った写真1枚も入らない容量である。貧弱。

ちなみにドクター中松がフロッピーディスクを発明したと言われることがあるが、IBMが抵触しそうな権利に対して契約しており、その中のひとつがドクター中松の特許なのである。

フロッピーディスク / この1番デカいやつを使用

2次入力では保険者別にフロッピーを入れ替える必要がある。1次加算機では点数のみの入力に対して、2次加算では1枚目のみ保険者番号の入力が必要になる。

50件の入力が終わると合計点数が表示されるのでそれを1次加算機の結果と比較して合致していれば次の束の入力に移る。

合致していなければ誤入力箇所を特定する。

1次入力で誤入力している場合

→ ロール紙の入力箇所を訂正 + 合計訂正。

2次入力で誤入力している場合

→ 該当箇所を訂正入力。

1次入力で誤打鍵が多いとめっちゃ怒られるのだ。2次入力の人がいくら正確で早くても1次入力で間違っていると間違った箇所を特定する時間が必要になり時間のロスになるからだ。

ちなみに達人になると入力作業をしながら不備チェックをするツワモノもいる。自分が支払基金に勤めていた時に入力作業で唯一凄いと思った「峰さん」という女性がその人だ。

打鍵スピードが半端なく早くてほとんど誤打鍵もない超人であった。

ちなみに1次入力と2次入力の結果が違う時にその差が3で割り切れるときは数字をひっくり返して打っていると特定できるのだ。(厳密には9で割り切れる)

例) 1530+100=1630が正解 1350+100=1450が誤入力 その差が3で割り切れる180なのでどこかで数字がひっくり返ってるなと当たりをつけることができる。

発送

電算機での入力が終わると各保険者への発送作業へ移行する。同じ保険者のレセプトを箱に詰めるだけなので、この時期になると班の中で交代で有給を取得することになる。

閑散期や繁忙期といった時期は特になく年間を通じて同じようなサイクルの流れである。月間500万枚のレセプトを捌かなければならないと聞くと気が遠くなる気もするが、実際には長年にわたって築かれたシステマティックな流れが構築されているのでさほど大変ではないと思う。

ただし、医療内容の疑義関連の習得にはどうしても時間が必要であり、一般的には支払基金の仕事を把握するまでに少なくとも3年は必要だと入社当時に聞かされたことがある。

時代の流れによって今ではレセプトも電子化されているようなので上に紹介しているような作業というものはほとんどなくなっているのかもしれない。

しかし、まだ紙のレセプトしか存在しなかった時代に他では経験できない事務作業に就いたことで得られたものが自分の中では圧倒的な割合で占めていると思う。

今でも支払基金に復帰して働いているところが夢にでてくる時もあるのだ。

80年代アイドルと東京パフォーマンスドールが大好きな現役ゲーマー。最近はブログ投稿もライフワーク化しています。

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